
楽天のモバイル業界参入の切り札
アルティオスターとの業務提携発表
楽天市場は2月12日にアルティオスターとの戦略的資本業務提携について合意したと報道があり、5月7日には同社への出資が完了したとの開示がありました。
初めて聞く人も多かったと思いますが、アルティオスターとは?
そしてなぜ楽天がアルティオスターと業務提携を組んだのか?
今後の楽天の携帯キャリア参入が成功するのか失敗するのか、大きく左右する案件なので全容が明らかになってきたので検証する事にしました。
楽天市場が公表した発表文書によると、
完全仮想化したクラウドネイティブの通信ネットワークを基に通信事業サービスを開始する
という記述がありました。
そして、アルティオスター社の仮想RANを活用し5Gへとスムーズに移行するため米インテル・クアルコム等の大手米企業と連携する方向で進んでいます。
それではアルティオスターとはどのような企業なのか見てみることにします。
アルティオスターについて
同社は、仮想化RANを活用してモバイルネットワークの構築を目指す米スタートアップ企業として注目されています。
現状の通信企業各社と比較すると、モバイル用ではなく通常のサーバーをモバイル用サーバーとして使用する事ができるソフトウェアを組み込むため、設備投資は5分の1と大幅に抑える事ができる、との内容です。
参考事例として、楽天モバイルの指揮を執るアミン氏が以前、16年9月にインドの携帯会社にいた時に仮想RANを採用し、わずか1年半でインドの携帯シェア率を15%まで伸ばしたと言われる新技術です。
アルティオスターの技術と実績はどれほどのモノなのか、いまいちイメージを掴めないので過去の実績から見る事にします。
という事で「インドの携帯会社」から分解していきましょう。
上で紹介したインドの携帯会社とは「リライアンス・ジオ・インフォコム」という企業です。
上で紹介したインドの携帯会社とはリライアンス・ジオ・インフォコムという企業です。
同社について調べてみると、
直近の決算ではインドの携帯会社大手4社の内、唯一同社だけが業績を拡大したとされます。さらに一部のアナリストの中では数年後にはインド市場で売上高1位になるのではないかとも予想されています。
インド市場では、そこまでの評価を受けるほどの活躍ぶりのようです。
ジオの武器はやはり低価格という点で、競合である他社は収益力の低下等、苦戦を強いられています。
ジオがインドの携帯市場に参入した際は、初期費用無料などのサービスで強烈なインパクトを与えました。
そのような業績拡大絶頂期の頃に同社に副社長として就任していたのが楽天モバイルの指揮を執るアミン氏なのです。
ジオは現在も2億人を超えるユーザーを獲得し急速に加入者を増やしています。
しかも、そんなジオにはソフトバンクが数十億ドル規模の投資する可能性が高いという情報もあります。
裏をかえせば、ソフトバンクが狙っていたものを楽天の方が早く手を出したとも言えるのではないかと思います。
個人があれこれ言うよりも、業界人の実際の行動の方がアルティオスターの技術を物語るのには、わかりやすいですね。
恐らく、日本人である私たちがまだ活用していない技術ではあるので、どのような仕組みで進んでいくのか非常に気になるところです。
楽天のモバイル業界参入はどうなるのか
それを踏まえて楽天とアルティオスターの業務提携のこれからを考えるとけっして無謀な挑戦ではないように思います。
ただ、日本とインドでは通信環境があまりに違いますので、必ずしも日本の環境に当てはまるとは思いません。
しかしながら、アルティオスターの仮想RANはこれからの通信業界を大きく変えていく可能性も非常に高いと思いますので、「仮想RAN」というキーワードだけ覚えておいても後々の投資に役に立つはずです。
景気が下向きの時代には、サービスにしても物販にしても、どうしても「低価格」がモノを言います。
これから景気後退が訪れるであろう日本にとって、楽天が仕掛けようとしているのではないかと思われる「低価格帯」スマホ(もしくはサービス)は、拡大の余地があると感じます。
投資にあたって気にかけておく事
また投資にあたって、注意する点を挙げるとすれば
- 準備期間中の計画遅れ等のマイナスIR
- 初期契約の施策
- ユーザー数の積み上げ状況
- サービス開始後の通信精度
- 4Gよりも5Gの進捗を見て!
という所でしょうか。
楽天も詳しい部分までの公表はしておらずどうなるのか全然わかりませんが、
サービス開始後の集客施策は大規模なものを用意すると思われます。(後発企業にはかかせませんので)
そして、楽天参入の旨みは今回検証してみた所、4Gよりも5Gに対してのメリットが非常に大きく感じられます。
5Gに移行した時の他社対比での進捗を見て判断したい所です。
ただし拡大期の収益は大幅に悪化すると思われるので投資パターンとしては
1、サービス開始直前に保有株を売却。(値上がりしていれば)
2、集客施策の影響で大幅な減益決算により株価下落時に拾い集める
3、数年後に投資フェーズ終了後、事業は収益化へ。
というような流れになれば最高ですね。
モバイル業界はシェア率が一番関係してくる部分ですので
集客期間中のユーザー数の推移には注目しておきましょう。
楽天の業績
簡単に楽天の直近の業績も念のため見ておきましょう。
- 売上高:1兆1,000億円(+16%)
- 経常利益:1,654億円(+14%)
- 純利益:1,422億円(+29%)
直近の業績についてはこの規模で、2桁成長と非常に順調に推移しています。
ただ、最近発表された2019年12月期の第1四半期決算では営業利益が4倍以上と大幅な増益となりましたが中身は米リフトの評価益の計上が1,100億円もあったため、それを除くと大幅な減益となっています。
●インターネットサービスは、増収減益
- 売上高:1,699億円(+13%)
- 営業利益:10億円(前期比144億円減)
(※米リフトの評価益を除くと、このような業績となります。)
●フィンテック事業は、増収減益
- 売上高:1,142億円(+22%)
- 営業利益:201億円(-1%)
●モバイル事業も64億円の減益。
ここについては設備投資があるので仕方ないですね。
それぞれを見ていくとECサイトがメインのインターネットサービスはこれから更に厳しくなっていきそうです。
物流関係の費用増やサービスの強化で収益率が徐々にですが下がってくるかもしれませんね。
ただ、楽天といえば楽天市場と思っている方が私を含め多いと思うのですが、こうして見ると証券サービスが不調だとしても案外フィンテック事業の業績は安定していて頼もしいです。
そして、やっぱり第3の柱としての「モバイル事業」育成もとても楽しみですね。
既にインフラ企業としての社会的存在感のある企業に成長しており、モバイル事業の成功によっては、さらに日本人の生活に欠かせない企業になる事は間違いないでしょう。
まとめ
今回、楽天の携帯キャリア参入の最重要エンジンになるであろうアルティオスターとの業務提携について検証してみた結果、わたしの判断は
十分、長期投資に値する企業
という結果になりました。
というのも日本のインフラ企業としての現在の立ち位置を確立しているにも関わらず、業界初の「仮想RAN」という新しい分野を取り込んで既存のモバイル業界へ参入するベンチャー精神は純粋に応援したくなります。
成功するか失敗するか現時点では判断できませんがユーザー数の推移を注視して危険だと感じたら手放せば良いだけなので長期投資として保有しておいてもまったく問題ないと思います。
失敗しても2つの柱が既にあるので影響は限定的だとしても、キャリア参入が成功した時のリターンは大きいと思いますよ。
楽天は投資妙味アリです!